03年5月17日近ブロ行研集会レポート

「国民のための裁判所実現をめざして」
全司法労働組合近畿地区連合会

1 司法改革の流れ
90年代中頃に、司法の現状について、特に、民事裁判は、時間と費用がかかり過ぎて経済に悪影響を及ぼすなどと批判され、早急に民事訴訟手続の改善を行い、国民に利用しやすくわかりやすいものにしないと、国民の司法離れを助長し、民事裁判の社会的機能の低下を招くという危機感が国民各層から上がるようになる。
そうした中、98年5月に経済連が「司法制度改革についての意見」を発表、6月には自民党が「司法制度特別調査委員会ー21世紀の司法の確かな指針」を内閣に提出した。さらに、日弁連が「司法改革ビジョンー市民に身近で信頼される司法をめざして」をまとめて国民的な議論を呼びかけ、国民各層で幅広く司法制度改革の議論が行われるようになる。
また、同じ頃、少年事件について、法曹三者による少年事件の事実認定手続等の現状と問題点についての論議が始まり、法制審議委員会でも少年法改正の審議がされるようになる。
1996年 6月 新民事訴訟法成立
98年 1月 新民事訴訟法施行
99年 7月 司法制度改革審議会設置
12月 司法制度改革審議会が「司法制度改革に向けてー論点整理-」発表
2000年11月 「改正」少年法成立
01年 4月 「改正」少年法施行
7月 司法制度改革審議が「意見書」提出
11月 司法制度改革推進本部設置

現在、首相を本部長とする司法制度改革推進本部が2004年11月30日までの3 年間の期限で、10の分科会を設け、裁判官制度の改革、刑事裁判における裁判員制度の導入、民事訴訟の審理期間の半減、裁判所配置の見直しなどの課題について、具体的な立法化に向けて議論が進められている。

2 全司法のとりくみ
① 全司法は、民事訴訟法や少年法の法案成立まで、また司法制度改革審議会の「論点 整理」や「意見書」の発表までのそれぞれの節目ごとに、それぞれの問題点を明らかにするとともに、要求や意見をまとめて裁判所内外に発表している。また、弁護士会や民主団体と協議を行ったり、集会に参加して共闘を呼びかけている。
② 全司法は、労働条件の維持・向上をめざすとともに、国民のための裁判所を実現するため国民とともに国民の立場で考える民主的な司法制度を追求する活動として、司 法制度研究活動を組織的にかつ恒常的に行っている。
具体的には、統一テ-マ、あるいは各機関が、それぞれが抱える問題について、職場実態を調査し、討議した結果を発表する集会を年に1度開催をしている。集会では、テーマによっては講師を外部から招いて講演を行ったり、裁判所外の方の参加を募り 開催している。
③ 裁判所予算の国家予算に占める割合が僅か0.4%という状態が続いている。全司 法は、国民のための裁判所を実現するためには、裁判所の物的・人的拡充が必要不可欠であり、それを実現するため「全司法大運動」と称して、裁判所の物的・人的拡充を求める国会請願署名にとりくんでいる。現在7年連続で採択を勝ち取っている。

3 全司法が2000年に実施したアンケート「こういう裁判所を作りたい」の大阪での 結果は次のとおりです。
① 72%の者が現在の裁判所は国民にとって利用しにくいとの回答している。
② 68%の者が司法制度・裁判所の改革が必要と回答している。
③ 50%以上の者が裁判に時間がかかりすぎるのは、裁判所あるいは弁護士・当事者 等のいずれかに原因があるとはいちがいには言えないと回答している。
④ 費用がかかりすぎるのは、裁判所への手続費用が原因だとはとらえておらず、弁護 士費用等に原因があると見ており、裁判等費用の解決については、77%の者が法 律扶助制度の充実すべきと回答している。
⑤ 裁判所の物的施設では、受付・案内設備、待合室が不十分が70%強、事務室が不 十分だという回答が80%以上ある。
⑥ 今後の改善の方向性については、裁判官の増員が必要との回答が89%、一般職員 の増員が必要が85%、受付窓口対応・案内システムなどの拡充や各種書式・パン フレツトなどの充実をもとめるのが70%以上となっている。
⑦ 法曹一元化については、意見が分かれるが、法曹人口の増加に積極との回答は53%となっている。
⑧ 裁判外の代替的紛争解決制度の構築・拡充が33%、市民の権利実現への法改正等 が44%の者が積極と回答している。

4 全司法近畿地連としての「国民のための裁判所」を目指したとりくみ
 司法制度研究は、自らを真に国民のためといえる裁判所を実現する社会的責任を負うものと考え、あるべき「国民のための裁判所」を実現することを目的とした、全司法の伝統的な研究活動と位置づけられています。全司法近畿地連では、司法制度改革の中、毎年、司法制度研究集会を実施し、知識を深めるとともに、関心を喚起しています。

5 近畿地連「司法制度研究集会」
 ① 昨年度の集会(2002年6月)
  テーマ1 簡易裁判所の事物管轄拡大について
   国民にいちばん身近な簡易裁判所。そこでの民事訴訟は訴額(例えば貸した10万円を返せ、というときの10万円、といった、当該訴訟の基準となる額)が90万円まで、というのが原則ですが、その額を引き上げ、より多くの事件を簡易裁判所で扱うようにする議論があります。
   国民にとっては、簡易迅速を旨とし、数も多い簡易裁判所を利用できる機会が増えるのメリットがある一方、裁判所内では、運用の仕方や人員配置の点、で様々な問題がある等の議論がされました。また、簡易裁判所が司法試験経由でない裁判官がいたり、民間出身の非常勤である司法委員が話し合いの手助けをする制度がある(=国民の司法参加)場所であることで、裁判所自体が変わっていくのでは、という意見も出ました。
  テーマ2 家庭裁判所への人事訴訟事件の移管について
   例えば、自分はどうしても離婚したいのに配偶者が協議離婚に応じてくれないとき、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。家庭裁判所ではその家庭裁判所でも合意が出来なかった場合、それでも離婚したいと思えば、地方裁判所で裁判をする必要があります。そうした裁判(人事訴訟)が地方裁判所から家庭裁判所に写されることになりました。
   地方裁判所と家庭裁判所とは、理念を異とする裁判所ですから、今まで他の訴訟事件同様に公開の法廷で行われてきた人事訴訟事件の手続に、変更が加えられる可能性があります。また、家庭裁判所に配置されている家庭裁判所調査官が、どのように事件に関与していくかも課題です。さらに、大阪、京都、神戸など、地方裁判所と家庭裁判所が別個の場所にある場合、施設面(家庭裁判所に法廷が足りない!!など)や人員配置の問題もあります。そのような、想定される様々な問題点について認識を深めるために討論を行い、様々な立場からの意見が出されました。
 ② 今年度の集会(2003年6月予定)
  テーマ1 家庭裁判所への人事訴訟事件の移管について
  実施が目前に迫ってきたこともあり、昨年に引き続きこのテーマに取り組むことになりました。
   本年は、この分野に詳しい弁護士の講演を頂くとともに、書記官・家庭裁判所調査官にアンケートを実施して、意識の喚起を図るとともに問題点に対する認識を深める機会をもうけます。
  テーマ2 裁判員制度について
   国民の司法参加のかたちとして注目される、裁判員制度についてとりあげます。今年はまず足がかりとして、ビデオ等を利用して多くの人が問題意識をもてるように努めます。

6 おわりに
 裁判所は、純然たる行政機関ではありませんが,「国民のための裁判所」という理念は、国民の「くらし」をサポートするものですし,またその実現には税金が使われます。そういう意味も含め、裁判所職員はもちろん、多くの人に司法制度がどのように動いていくのか関心を持って頂きたいところです。たいへん大雑把ではありますが、以上の活動報告をもって「行政研究活動の成果」に代えさせていただきます。
                                      以上



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